0. はじめに
本ページをご覧になられた方で、筆者をご存じない方がほとんどだと思いますので、自己紹介からまず書かせて頂きます。
筆者は、有限会社オープンスフィアで代表取締役をしています、花山慎一という者です。ネットではハンドルネーム hanatyan で活動しています。 経歴上、こちらの方が通りがよいかと思います。
2013年の秋口から2020年の9月一杯まで、株式会社JCG様でeスポーツ大会の運営などに業務委託の形で関わっておりました。 実は、その遥か以前 (*) から「秘密基地GAMES」としてeスポーツ大会の運営には関わっていたのですが、主に「配信」の技術面担当が多く、 弊社、というか筆者の技術的ポートフォリオの大部分を占めていると思います。
今でこそ、配信は放送・イベント業の一端として捉えられる様になりましたが、その歴史的成り立ちからPC・IT業の流れが色濃く残る分野だと思います。 私も、放送・イベント業出身の人間ではないため、あくまでも根幹はIT技術者としての「配信」の捉え方になることをご理解いただきたいと思います。
このような記事を書き始めたのは、未だ vMix という配信ソフトに関する、日本語の情報が少ないのをどうにかしようと考えたからです。 vMix を日本で一番熟知している(かもしれない)自分が vMix の使い方を書き残しておくことには意義があるかもね、という事で始めました。 ここいら界隈で Yet Another な配信ソフトをお求めの方は是非ご一読いただければ幸いです。
(*) ニコ生 YouTube Twitch なんてなかった時代から配信業務を行っており、.wmv 全盛期の頃、
光回線を引いて Windows Media Server で大会配信するなんてこともやってました。 mms://
って知ってる?
1. vMix とは?
vMix とは、オーストラリアの StudioCoast Pty Ltd 社が開発する、ソフトウェアビデオミキサーです。 もっと簡単に言ってしまえば配信ソフトです。Xsplit や OBS (Studio)、 Wirecast 等と同列に語られるソフトだとも言えます。 基本的にはソフトウェア単体で販売される製品なので、TriCaster とは若干違う立ち位置ですが機能的には同じようなものです。
特徴としては、パーソナルユースが主となる Xsplit や OBS (Studio) と違い、 スタジオユースを想定して作られている(*) という点が挙げられるでしょう。そういう意味では、Wirecast とは価格帯的にも競合する物と言えます。Wirecast 最近見てないなー・・・。
言い忘れるところでしたが、Windows専用ソフトウェアです。
(*) 実際に現場で使い物になるかどうかは別として
2. vMix ってどんなの?
クリエイター向けのソフトは、見た目から入る人も多いと思いますので、実際の画面をまずお見せしましょう。こんな感じです (*)。
スタイリッシュ・・・ではないな。全体的にフラットな四角のパネルが並んでいます。 ぶっちゃけダサいかも?ぱっと見、Windows 3.1 の頃を思い出す古臭い作りです。 まあ、UI にかっこよさを求めるソフトじゃないので・・・。 配信PCにかかる負荷はより低くしたい所なので、UIがすごく省エネなのは良い事だと思います。
スタジオユースを想定しているので、ビデオミキサー然とした配置です。 上半分のペインは、左がプレビューで右がアウトプット(≒プログラムアウト)です。 下半分のペインはインプットがずらりと並び、右側に音声のミキシングフェーダーを表示させることもできます。
「インプット」は正しく絵音素材で、クリックして選択する事でプレビューに呼び出せます。 プレビューから「フェード」や「カット」等、トランジションを使ってアウトプットに移せば、晴れて出したい絵音をオンエアに送出できます。 尚、それまでアウトプットにあったインプットは、入れ替わりでプレビューに移動します。
と、言う様な使い方が基本になってきます。後はインプットをどう作り込むかって感じです。
(*) 筆者が趣味の車載配信をする際、実際に使っているセットアップです。なぜ、vMixが車載配信なんてものに向いているのかは追々説明します。
3. お高いんでしょう?
比較的出来が良い OBS Studio が無料で使える今となっては、Xsplit の生涯ライセンスですらお得感が薄れてしまうのですが、vMix も安くはないお値段です。 以下のページに、エディション別の価格と機能比較が載っています。
一見、BASIC HD がお手頃のように見えますが、インプットが4つまでの制限があります。 4つぽっちじゃ蓋絵2枚と動画1本とゲーム取り込み1画面で埋まって実況席が出せないです。 BASIC HD 買うくらいなら OBS Studio でいいと思います。 つまり、正味使い物になるのは HD からだと思います。 オススメは 4K で、機能的不自由がほぼなくなります。 PRO は必要になるケースは少ない(ほぼない)かなと思います。
とりあえず1か月間、無料で体験版 (*) が使えるので、興味ある方は試してみてください。尚、認証にメールアドレスの登録が必要です。
(*) PRO までの全機能を体験できます!
4. こんなあなたには向いてない
ここまで書いておいて、vMixが向いてない人を発表します。
- 現状で満足しています
ミスが許されない現場では使い慣れているソフトが一番!
- PCとソフトウェアを信用できないという人
Blackmagic ATEMシリーズとかRoland Vシリーズとかのターンキーシステム (*1) を使いましょう
- 日本語サポートがないと・・・
TriCaster は如何?
- Macユーザー
この界隈、意外に Mac ユーザーが多くて、いまだ Flash Media Encoder を使っているなんてところもあったりなかったり。 Wirecast も Mac に対応してます。
- 1 PC 配信 (*2) 者
そういうソフトじゃねえからこれ!
(*1) キーを回せば即使えるよ!っていうシステムのこと
(*2) 1 PC でゲームも配信ソフトも動かす配信環境のこと
5. vMix の思い出
vMixと出会ったのは、筆者が JCG で BF4 の大会を運営しているとき(2015年)でした。Wirecast の画質のダメさ加減 (*1) に嫌気が さしていたそのころ、新たな配信ソフトを探求していた最中に発見しました。 いや違うな・・・、「リプレイ」をどうにか取りれられないかと考えて探してたんだっけか。 それとも、かっこよく「スティンガー・トランジション」を入れたかったからだったか。 まあ、その全部だったかも。
とにかく当時、Wirecast はスケーリングすると画面が眠くなる(ぼける)という問題を抱えており、 テロップやオーバーレイの位置合わせも数値入力できなくて微調整が難しいなどの問題もあった。 オペレーションも、必要な素材をレイヤー毎に都度選択して出すみたいな独特な感じで事故 (2) が多かった、というのもあった。 リプレイに至っては、かなり以前から AmaRecTV のリプレイ機能を使う (3) 等で導入できないかを検討してました。
そんな中、求めているものが全部揃っていたvMixというソフトを発見したので、無料体験版を使って1か月個人配信で運用してみて、 「いい感じに安定してて使える」ことが分かったので現場で採用したという流れです。
閑話休題。
(*1) 昔の話です。今は改善してるのかも
(*2) 音声のレイヤーを選択し忘れるとか
(*3) もうこの機能無くなってるよね・・・
6. vMix を導入しよう
前置きが長くなりましたが、1 PC 配信者でなく、Macユーザーでもなく、更に Xsplit や OBS Studio のような簡易的な配信ソフトは卒業したくて、 でも Wirecast にはトラウマがあって、TriCaster は高嶺の花!という人は、早速 vMix を導入してみましょう。 体験版のところで掲載した、以下のリンクでダウンロードできます。
ダウンロードしexe ファイルを実行してインストールを行ってください。
ここで注意!言語で日本語を選んではいけません。
なぜなら vMix の日本語は機械翻訳によるものなので、逆に分かりにくかったり面白翻訳だったりして作業に集中できないので、 英語を見ると吐き気を催す英語コンプレックスである等、余程の事情がない限り英語を選んでください。 筆者も教える相手が日本語設定だと、正確にアレをこうしろと指示しにくいので、いつも開口一番英語にしろと言っています。 この記事でも英語設定を前提に話を進めます。
初回起動時に、ライセンスキーの入力を求められます。実際にvMixを購入するとメールでライセンスキーが届くので、この時に入力することになります。 今回は体験版を使用する前提で話を進めますので、赤枠で囲ったところにメールアドレスを入力して、届いた体験版ライセンスキーを入力し、体験版をアクティベートしてください。
7. vMix で配信してみよう(仕込みとリハーサル)
起動すると、プリセットで使用する解像度とフレームレートを聞かれます。 多くの現場では 1920 x 1080 の 59.94p だと思いますので、それを選択してください。
以下の様な真っ新な(真っ黒な)プリセットが vMix に読み込まれます。 初期画面が微妙に違うのは、設定の違いなので気にしないでください。カスタマイズもできますから後々解説したいと思います。
まずはインプットを追加していきましょう。 画面左下の「Add Input」をクリックすると、ダイアログが開き、追加できるインプットがずらりと並びます。
この中でよく使うのは以下の物です。
名前 | 内容 |
---|---|
Video | 動画素材(絵音) |
Camera | キャプチャーボード取り込み(絵音) |
NDI / Desktop Capture | デスクトップ取り込み(絵のみ)とかNDI (*)(絵音)ソースとか |
Image | 静止画素材。PNGの透過も効くのでオーバーレイなどに使用 |
Photos | 静止画スライドショー。自動ローテーションも可能 |
Colour | 単色(黒、等)とかカラーバーとか |
Audio Input | 音声入力デバイス(音のみ) |
Title / XAML | テロップ(後々説明するタイトルデザイナーで作る) |
Web Browser | Web ページ(絵音。例えば YouTube とか Twitch とかも開ける) |
これだけ知ってれば、一般的は配信はこなせると思います。 尚、映像ソースはアルファチャンネルがあるものは透過できます。
ここでは適当な動画と静止画を1枚ずつ追加してみましょう。
動画は Video を選択して、「Browse」ボタンでファイルを選択してください。
静止画は Image を選択して、同じく「Browse」ボタンでファイルを選択してください。
以下の様に二つのインプットが追加されました。
ここでは、静止画の蓋絵で放送開始とし、開演と同時に動画を流す、動画が終わったら蓋絵に戻し、しばらくしたら放送終了、というシナリオを想定します。 それでは、まずリハーサルをしましょう。
アウトプットを蓋絵の状態にするには、静止画インプットをクリックして選択し、一旦プレビューに表示させます。 その状態で、真ん中の「Cut」をクリックしてアウトプットを静止画の状態にします。
別の方法としてインプットの下の「Cut」をクリックするという方法もあります。これはプレビューをすっ飛ばしてアウトプットにインプットを送出します。
次に、動画インプットをクリックしてプレビューに呼び出します。この段階では動画の再生は起こりませんので安心してください。 そして、真ん中の「Fade」ボタンをクリックできるように、カーソルをボタンに合わせ、適当なタイミングで10秒前から元気よくカウントダウンします。 歯切れよく大きな声でカウントダウンしましょう。なんか、プロっぽくなりますよ。
10秒前, 9, 8, 7, 6, 5秒前, 4, 3, 2, 1
ゼロのタイミングで真ん中の「Fade」をクリックします。 すると、プレビューに待機させておいた動画インプットが、クロスフェードしつつアウトプットに表示され、再生が始まります。 アウトプットに表示されていた静止画像インプットはプレビューに移動しました。 動画の下に、現在再生中の時間と残りの尺が表示されます。
動画が終わったら蓋絵に戻しますので、良き所でスタンバイします。 静止画インプットをクリックしてプレビューに呼び出しておき、真ん中の「Fade」ボタンをクリックできるように待機してください。 それでは、動画の残り尺がゼロになったら、「Fade」をクリックして蓋絵に戻してください。 これで番組は終了です。お疲れさまでした!
もし、動画の再生途中でプレビューに戻した場合は、「Restart」ボタンを押して再生開始箇所を先頭に戻すことを忘れないでください。 デフォルトでは一時停止状態で再生位置が保持されますから、次回、そのままアウトプットに出すと途中からの再生になります。 この動作はインプットの設定で変更できます(後々説明)
(*) NDI: ネットワークデバイスインターフェースの略で、TriCaster でおなじみの NewTek が開発する、ギガビットイーサネット(LAN)経由で絵音を伝送する規格です。
8. vMix で配信してみよう(本番)
・・・おっと、そういえば、ここまではリハーサルでしたね。では、いよいよ本番配信をしてみましょう。
本番の前に、配信設定をする必要があります。普通は配信設定はリハーサルをやる前にしておく (*1) べきものですが、今回は本番前に行います。 画面下の「Stream」の左横にあるギアアイコンをクリックしてください。配信の設定ダイアログが開きます。
「Destination」から送出先の配信プラットフォームが選択できます。一覧に無くても Custom RTMP Server で送出することが出来ますから安心してください。 ここでは「YouTube Live」を使う事としましょう。 YouTube Live では、Stream Key を入力して配信を行います。Stream Key は YouTube Studio のライブ配信の設定からコピーしてきます。
尚、vMix では、3つの配信先まで同時に送出することが出来ます。
次に、Quality でエンコードクオリティを設定します。プリセットから選ぶこともできますし、右のギアアイコンをクリックしてカスタム設定することもできます。 なぜかは分りませんが YouTube 用のプリセットはないので、代わりに「Twitch H264 1080p60 6mbps High AAC 128kbps」を選択しましょう。
「Application」は使用するエンコーダーの選択ですが、特に理由がなければ FFMPEG を選択してください。 「Use Hardware Encoder」にチェックすれば、NVIDIAのGPU (*2)が搭載されたPCであれば、NVENCを使用してハードウェアエンコードができます (*3)。
「Save and Close」をクリックしてダイアログを閉じ、配信の設定は終わりです。
幸運にも YouTube Live には、テスト送出の機会が与えられています。 アウトプットを蓋絵の状態にした後、画面下の「Stream」ボタンをクリックして送出を開始してください。 「Stream」ボタンが赤くなり、配信先に送出されていることを示しています。 YouTube Studio を開き、ライブ配信の設定でプレビューして、蓋絵が表示されるかを確認してください。
念のため、アウトプットで動画を再生して、問題なく絵音がエンコードされて送出されるかをチェックします。 残念ながら YouTube Live の仕様で、テスト配信中はSD画質でしかプレビューできないので注意してください。
vMix はデスクトップ音は取り込まない
ここで、vMixの大事な特性を一つ説明!
他の一般的な配信ソフトと違って、vMix の「音声」は何らかの入力ソースから取り込むしかなく、デスクトップの音は取り込みません。 「デスクトップキャプチャ」を使ってもデスクトップ音は取り込みません。
従って、Webブラウザで開いた YouTube Studio のプレビューで音が鳴ってもループすることはありません。 「Audio Input」として「ステレオミキサー」を追加すれば話は別ですが、vMix の用途的には、それをするケースは稀だと思います。
テスト配信で、よく確認しましたか?
それでは本番まいりましょう。
- アウトプットが蓋絵になっているかを確認し(なっていなければ蓋絵にし)
- 「Stream」ボタンが赤く表示されているかを確認し(なっていなければ送出開始し)
- 映像が YouTube Studio のプレビューに表示されているかを確認し(されていなければページをリロードして、表示されるまで待ち)
- オールクリアならば、YouTube Studio で「ライブ配信を開始」をクリック
良き所で、リハーサルでやったのと同じ手順で、動画再生、動画終わりで蓋絵に戻し、 良き所で YouTube Studio の「ライブ配信を終了」をクリック、 その後にvMixの「Stream」ボタンをクリックして送出を止めて、本番終了です。
と、まあ、vMix を使っての YouTube Live 配信はこんな感じの手順となります。かなり丁寧に説明したつもりですが、お判りいただけたでしょうか。
(*1) 絵音が適切に配信に乗るか確認するため、テスト送出しながらリハーサルすべき
(*2) 最近はローエンドの製品でもない限り搭載されているでしょう・・・。こちらに一覧があります
(*3) NVENC でハードウェアエンコードできるストリームは2つまでです。
9. 今回はここまで
とりあえず初回は、vMix はこんな配信ソフトなんだよ、というところ、ほんの触りだけ説明した感じです。 もっとより詳しい使い方、特にインプットの作り込みのところを今後書いていきたいと思いますので、筆者の次回作にご期待ください。 それではまた!
次回は → vMix ハンズオン【第2回】